たまには皆でのんびり。














今年もこの季節がやってきた。 ああ・・・今年は一体何を願おうかな。




学校の帰り道、オレは毎年恒例となった行事のメインを買う。 これはいつからかオレの役目になっていた。 ・・・まあメンバー考えたらしょうがないんだけどね。 バジル君はきっとまたオレの父さんに吹き込まれた間違っらやり方を素で信じて進行しちゃいそうだし、骸に頼んだらきっと今オレが買った『コレ』自体が違うものに変身するだろう。 雲雀さんにいたってはもう買ってくるのすら忘れるに違いない。 因みに今挙げたことは家事のほとんど全部にも当てはまっちゃったりするのだ、残念ながら。 つまりはオレがやるしかなくなるわけで。 つくづく消去法って怖いと思う。 まあそんなこんなで、オレは必然的にオレ達4人が住むシェアハウスの家事のほぼ全般を任される破目になっている。 ・・・一高校生のオレが、だ。 ・・と言っても、何もかもオレがやるわけじゃなくて、皆がやってくれることもある――と言っても1つなんだけどさ――。 何かと言うと、毎日の炊飯作業だ。 これだけは、シェアハウスに越して4年経ったけど今まで1度もやったことがない。 皆何だかそれぞれ普通の学生とは思えないような料理を作ってくれる。 バジル君はコックでも目指していたんじゃないかと言うようなイタリア料理を振舞ってくれるし、骸はどこで見つけてくるのか毎回世界中の色んな国の料理を作ってくれる――昨日は確か、アルジェリアの郷土料理だったように思う――。 雲雀さんは料理なんか出来そうにないと思ってたけど、オレが引っ越していった夜皆が開いてくれた歓迎パーティーでどんな料理屋で見るよりも立派な日本食がずらりと並び、度肝を抜かしたことは4年前とは思えない程はっきり覚えている。 多分オレはあの時初めて『宮廷料理』と呼ばれるものを口にした。 ただし、雲雀さんが料理を作ることは稀にしかない。 雲雀さんは今世間の注目度NO.1と言ってもいいようなトップモデルだからだ。 その上どこかの番組の企画で去年から骸とバンド活動もしている。 まあ、それじゃ他の2人が暇なのかと言うとそういうわけではない。 骸は雲雀さんと組む以前からソロでやってきてる相当な人気の歌手だし、バジル君だって今をときめく若手俳優として注目をあびている。 つまりオレは、特に大した経歴を持つわけでもないのに何でかもの凄いメンバーと一緒に暮らしちゃったりしているのだ。 そんな幸せ者であるオレの名前は、沢田綱吉と言う――頼むからオレの名前知ったからって呪わないでくれよな・笑――。 因みに職業は、日本中どこにでも居るような極々普通の高校生、それからシェアハウス専属の家事係。




ああ、それと、ボンゴレって言うマフィアを知っているだろうか。 オレはそこのボスをやっている。


――ほら、大したことないだろ?




今日は突然黒ずくめの怖い顔した大男達に拳銃つきつけられる破目にもならず、無事家に辿り着くことが出来た。 ほっ・・・と一息吐いた途端、オレは家の様子がいつもと違うことに気付いた。 オレが返ってくる時間帯は、大概誰も居ないと相場が決まっている。 今年大学に無事進学した雲雀さんと骸は勿論、同じ高校に通っている――とは言え雲雀さんや骸と似たようなもので、仕事が忙しすぎてほとんど学校にはこれないのだけど――バジル君も、皆仕事仕事と飛びまわっている頃だ。 ・・・それが、如何したことだろう、今日はいつもがらんとしている筈のシェアハウスに人の気配がする。 それも、複数――まあ、オレの自称『右腕』でオレの師にSPを頼まれてる友人が勝手に屋根裏に住み着いてるから、黒ずくめの大男がずらりと居ることは無いんだけど――。 恐る恐る何か割るような音やら悲鳴やらが聞こえるリビングのドアをそっと開け、中を覗き込んだ。



「あ、綱吉。お帰り」

「沢田殿っ、お帰りなさい!」

「ちょ、沢田君この人達なんとかしてください――っ!!!」



ドアを開けた先の光景は、何とも言えない――と言うよりむしろ思いっきりドア閉めて逃げたい――ようなものだった。 何でかよくわからないけど(いや、わかりたくない、のが正しいかも)、笑顔全開のバジル君が骸の上に跨って骸のシャツのボタンを全開にしながら手を振っている。 で、その横で涼しげに微笑みながらワンピース――・・・いや、あれは多分メイド服だ――を腕に引っさげた雲雀さんが骸のズボンを引き抜き、オレに投げよこした。 ・・・とりあえずこんなもの貰っても嬉しくも面白くも無いので、この状況についてちょっと質問してみることにした。


「・・・えーと、何してるんですか?」

「メイド作り」


即答でしかも簡潔、10文字にも至らない説明を投げ返してくれたのは勿論雲雀さんだ。 状況は・・まあわかった、いや、わからないと殺される――これ、結構本気だ――。 ・・・でもこれだけじゃ何のためにやってるのかはまだちょっと理解しかねるオレを一体誰が責められよう。 これ以上訊きたくないけど、訊かないとどう動けばいいかわからないので仕方なしにもう1度質問してみた。

「・・・・何の為に?」

「七夕だから」



・・・理解不能。


オレの脳内と雲雀さんの脳内はどうやら真冬の氷河と真夏の熱帯雨林くらいの環境差があるらしい。 誰かオレに七夕とメイドの関連性を教えてくれるとありがたい。 出来れば200字詰め原稿用紙一枚に収めてくれると嬉しい。 じゃなきゃオレの理解はきっと雲雀さんに殴られるより早く追いつかないに違いない。 因みに雲雀さんは、ろくに勉強もしなかったくせに東京にある日本1と言われる某国立一期の大学にトップで入学する程頭がいい。 モデルやるほどだから容姿が凄く綺麗なのもわかってくれてると思う。 つまりは頭脳明晰、眉目秀麗、容姿端麗・・とかまあ何だかそういうありとあらゆる誉め言葉が全部当てはまっちゃうような人なのだ。 そんな凄い頭とか綺麗な顔とか華奢な体つきからは考えられないほどこの人は強い。 一応マフィアのボス家業やってるオレでも、この人には一目置いている――まあオレがどんなレベルかわかんないだろうからあんまり比較にならないだろうけど――。

・・・と、雲雀さんが怖いのが7割で、わけもわからないまま手伝わされて骸をメイドに仕立て上げ――始終骸に涙目で睨みつけられたけどしょうがないだろ?雲雀さん怖いしにこにこしてるバジル君やたら可愛いし何だかんだいってオレと骸じゃこの2人には敵わないんだからさ――、毎年恒例七夕をやることになった。



「はい、短冊。笹はとりあえず庭に挿しときましたからね」

「ありがと」

「毎年沢田殿にやらせてしまって・・・本当にすみません・・来年こそ拙者が参りますので・・・!」

「いやいや、いいよ、バジル君は(・・バジル君がやるとちょっとどころじゃなく心配だもん)。はい、骸」

「うぅ・・・綱吉君・・・」


うわ、凄く珍しいものを見れた気がする。 メイド服着せられて涙目でずっと俯いてた骸がついに泣き出した。 メイド服自体は『凄い似合ってるよ骸!』とは言いがたいけど――むしろオレ的にはバジル君と雲雀さんに着て欲しいんだけど――、4年つきあって初めて骸が本気泣きしているの見たよ、オレ。 ああ、ついでだから言っておくと骸と雲雀さんは『恋仲』と言われる関係にある(因みにオレとバジル君もそれにあたる)。 えー・・・・コホン、同じ・・『上』に居る者として、こういうことをさせられる気分が痛い程わかる。 オレなんてしょっちゅう今の骸みたいなもんだからだ。 雲雀さんとバジル君はどうやら『夜』のときの気性に似通うところがあるらしいので、多分骸もこれから『夜』はこの格好で『奉仕』させられるんだろう。 ・・・いや、断じてオレがバジル君にさせられてるわけじゃない。 ・・・・本当だ。 ・・あーあ・・、何でオレ達って『下』が可愛いらしいMとかじゃなくドSなんだろう。 まあ・・そこが好きなんだろうけどさ。


「綱吉」

「何ですか?」

「声、出てるよ」

「うわっ!?」


「沢田殿ーっ、願い事書けました!?」

「う、うん、一応ね」


・・・よかった、どうやらバジル君には聞こえなかったようだ。 一瞬妖しげな微笑をオレに投げかけ――バジル君が居なかったらあっさり惚れたかもしれない――、雲雀さんは骸を苛めに・・いや、骸の様子を見に行った。


「骸は?短冊書けた?」

「・・・書けましたよ」

「見せて・・なんだ、またこれ?」

「そーいう恭弥は何書いたんです!?」

「骸には見せてあげない」



不毛な痴話喧嘩が繰り広げられる横で(『酷いです、僕の見といて!!!』『黙りなよ、関係ないでしょ』『関係あるに決まってるでしょ!!!』・・・)、笹に短冊を括りつけながら、空を見上げる。 オレが帰ってきたのは5時くらいだった筈なのに、いつのまにか空には星が散っていた。


「・・・綺麗ですね、沢田殿」

「・・・・そうだね」

「・・今年も、願い事一緒でしたね」

「うん・・」

「雲雀殿と六道殿も一緒なんでしょうか・・」


「・・・多分、ね」


















『あ、沢田殿、流れ星ですっ!』

『流れ星!?きょ、恭弥といつまでも一緒に居られますようにっ!!!』

『ちょっと・・近所迷惑だから喚かないでくれる?』

『あ、雲雀さんもしかして照れてます?』

『・・・綱吉、死にたいの?』

『じょ、冗談ですよっ!!』

『君の冗談は面白くないね』

『さっ・・沢田殿―――っ!!!』

『あ、こら、綱吉君、僕の恭弥とイチャつかないでくださいっ!』

『・・だからっ、君はちょっと黙っててよっ!!!』







――いつ離れ離れになるかわからないけど、オレがオレで居られる間はどうか神様、この人たちと、この家で、こんな時間をオレの為に――






































『沢田殿、今年は何をお願いしたんですか?』
『・・・「来年も皆で七夕が出来ますように」だよ』







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